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11日
「140円貸せやボケー!」
市ヶ谷駅でsuicaにチャージをしていたら、
隣で甲高い叫び声を聞いた。
見るとそこには眼鏡をかけた小さい男の子が
怒りをあらわにしている。
見たところ小学三年生くらいだろうか、
おそらく仲間内でポケモンセンターにでも出かけて、
まとめて切符を買う役回りに幼い責任感が噴出し、
ガキ大将気分になっているのだろう…
と、オクターブの高さに苦笑しながら僕はそのまま改札へと向かった。
「はやくもってこいやボケー!」
と、彼のののしりはヒートアップするばかりで、
いくらなんでも叫び過ぎだな…と、
改札を通る際に後ろを向いたところ、驚いた。
その子のところへヒョコヒョコと歩いてゆくのは、
背中を丸めたおばあちゃんなんですね。
人間誰しもそんな光景を見れば怒りは湧くもの。
僕も先日ケーブルテレビで「一休さん」を見て
ストイックな親子愛にかぶれていたところもあり、
「ふざけるなよこのガキャァ!」
と、引き返して横っ面でもビビビと張ってやろうと思ったが、
そういう時に限って普段は二度三度と
読み取り機にかざさなければならないsuicaが一発OKとなって
改札を抜けてしまうからせつない話。
「ボケはお前だー!」と子供に向かって叫んだのが成田青年の精一杯の対応だった。
ニート、少子化、家庭内暴力、
新ドラマ「積木崩し」が安達祐実&舘ひろしというカオス…
と、この日は一日そんなことばかりが考えていたが、
何より頭に浮かぶのは、僕の声に振り向いた時の
おばあちゃんのさみしそうな、申し訳なさそうな顔だ。
「クソ、何度考えてもムカつく。おばあちゃんも怒ればいいんだよ」
と怒りを反芻していたところにふと気づく。
振り向いたおばあちゃんの謝罪の表情は
「ボケはお前だー!」を「お前かー!」と聞いてしまったのではないだろうか。
あれ、だとしたら追い打ちかけちまったみたいじゃねえか!